処遇改善加算は、介護職不足を解決するために、国が創設した制度です。社会の高齢化に伴い、介護職のニーズは年々高まるなか、少ない給料や待遇の悪さから介護職はなかなか増えない。そんな中、介護職不足を解決するためには、介護職を増やすだけではなく、今働いている人の定着率を上げる必要があると考えた国が、介護職の給料アップに加え、やりがいの持てる職場づくりを促進するために作った制度です。処遇改善加算手当とは、読んで字のごとく、介護職員の処遇を改善するために支給する手当です。介護職のためにキャリアアップの仕組みを作ったり、職場環境の改善を行った事業所に対して、介護職の賃金を上げるためのお金を支給するというのが処遇改善加算の制度です。その為、「介護職員処遇改善加算」で介護事業所が取得したお金はきっちり介護職員に賃金として還元することが義務付けられています。今回、処遇改善加算手当を年2回、一時金として賞与という形で配賦・支給している場合に、どうような手順や手続きで、どのような評価方法で還元するかについて、弊社で採用している評価方法を具体的な計算式を示しながら説明します。
[ 仮想組織体系 ]
説明を進めるにあたって、ここでは、以下のような仮想組織体をベースに説明を進めますので、よろしくお願い致します。
留意:ヘルパーステーションのスタッフ15名は、老人ホームとの兼務です。
処遇改善加算手当(賞与)の評価方法(動画)
「処遇改善加算手当(賞与)の評価方法Lesson1(動画)」は、こちら
「処遇改善加算手当(賞与)の評価方法Lesson2(動画)」は、こちら
「処遇改善加算手当(賞与)の評価方法Lesson3(動画)」は、こちら
「処遇改善加算手当を賞与で支給する」テンプレートは、こちら
処遇改善加算とは?
処遇改善加算とは、介護職員の処遇改善を目的に、介護報酬を加算して支給する制度です。加算Ⅰ~加算Ⅴまでの全5区分からなり、区分ごとに設定された要件を満たすことで受けることができます。
加算の種類と加算率
処遇改善加算の加算率は、事業所のサービス区分と、算定要件により決定します。算定要件にはキャリアパス要件と職場環境等要件があり、満たす要件に応じて5段階に分かれています。要件を多く満たしている事業所ほど加算率が高くなります。
弊社では、算定要件として「加算Ⅰ」を取得していますので、ヘルパーステーション(訪問介護)では、13.7%、デイサービス(通所介護)では、5.9%の加算率となっています。
算定要件
キャリアパス要件
Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの3種類の要件がありますが、加算Ⅰの場合は、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの要件をすべて満たす必要があります。
Ⅰ:職位、職責、職務内容に応じた任用要件と賃金体系を整備すること。
Ⅱ:資質向上のための計画を策定して、研修の実施または研修の機会を設けること。
Ⅲ:経験若しくは資格等に応じて支給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること。
職場環境要件
賃金改善以外の処遇改善(職場環境の改善など)の取組を実施すること。
取得・運用要件
処遇改善加算を取得するには、事業所が「介護職員処遇改善計画書」を作成し、自治体(都道府県知事又は市町村長)に届け出る必要があります。そして加算の支給を受けた後、自治体に「介護職員処遇改善実績報告書」を提出する必要があります。
注意:
実績報告(4月から翌年3月まで)は福岡県では、加算を算定する最後のサービス提供月が3月となり、5月支払となる為、2ヶ月後の7月末が報告の期限となります。
処遇改善加算の交付金の仕組み
各事業所での利用者一人当たりの介護サービス売上に対して、一定の率を掛けた額が処遇改善加算となります。ヘルパーステーション(訪問介護)では、13.7%、デイサービス(通所介護)では、5.9%の加算率となっています。
処遇改善加算評価とは?
会社に支払われた処遇改善加算の交付金は、「すべて介護職員に支給しなければならない」という決まりですが、「均等に支給しなければならない」、「介護職員全員に支給しなければならない」という決まりはありません。支給する割合に決まりはありませんので、会社が独自に決めても良いのです。また、支給方法も毎月の給与に上乗せして支給することも、賞与を処遇改善手当で支給することもできるのです。介護職員の処遇改善として収入が増えるという目的が達成できれば、各社の考え方に任せられています。弊社では、均等に配賦するのではなく、教育訓練に繋げる為に評価を行った結果を元に配賦しています。
評価の対象者
業績賞与であれば、有期契約労働者(所謂パートさん)は、就業規則により支給の対象にはなりませんが、処遇改善加算手当の支給であるため、有期契約労働者(所謂パートさん)も対象となります。また、逆に業績賞与であれば当然に対象となる事務職やケアマネ、看護師さんは、原則、支給の対象とはなりません。その為、処遇改善加算手当(賞与)の評価の際は、どの人が対象で、どの人が対象でないか?を確認する必要があります。
評価対象期間の確認
次に評価を行なう場合の対象期間ですが、これは処遇改善加算の制度に合わせて、次のようにしています。
・06月度処遇改善加算手当(賞与)→評価対象(前年10月~当年03月)
・12月度処遇改善加算手当(賞与)→評価対象(当年04月~当年09月)
評価項目
処遇改善加算手当(賞与)の評価は、「処遇改善加算手当評価・配賦一覧表」によって行い、「就労時間評価」、「スキル評価」そして「総合評価」の3つの評価により、配賦額(賞与額)を決定しています。
評価対象者の確認
「処遇改善加算手当評価・配賦一覧表」の作成
各事業所の管理者に、評価対象者の確認を行って頂くために、確認用の「処遇改善加算手当評価・配賦一覧表」を作成します。
確認用の「処遇改善加算手当評価・配賦一覧表」には、対象となる社員名の他に各事業所の管理者に確認して頂く為に、以下の項目も記載します。
①対象者の名前
以下の方は、評価の対象とはなりません。
- 評価対象期間が、前年10月~当年03月の場合は4月1日、当年04月~当年09月の場合は、10月1日時点で在籍していない。
- 介護職員ではない。(看護師、ケアマネ、事務員等)
- 派遣契約社員
②審査L(レベル)
前回の「スキル評価シート」よる評価結果として判定されたスキルレベルを記入します。
注意:
゛認定゛の文字があれば、そのレベルは合格ですので次のレベルを受けて頂きます。゛認定゛の文字がなければ、Lnの場合はL(n+1)のレベルを再度受けて頂きます。
例:
L1の審査を受けて合格であれば、゛L1認定゛と表示されますので、結果がL0であれば、不合格の為、再度、L1を受けるということになります。
但し、L3が最上位につき、゛L3認定゛の場合は、管理者になって頂くか?管理者でなければ、再度L3を受けて頂きます。つまり、結果がL0であればL1、L1であればL2、゛L1認定゛であればL2、゛L2認定゛であればL3を受けることとなります。
③就労月数
6ヶ月間が対象となりますので、中途入社の方については、就労した月数を記入します。例えば、対象期間が10月から3月の場合で、12月入社の方であれば、就労月数は、4ヶ月となります。
④就労時間
6ヶ月間の各月毎の就労時間を、出勤簿等により転記します。
「処遇改善加算手当評価・配賦一覧表」の配布
確認用の「処遇改善加算手当評価・配賦一覧表」を本部からメール添付で、各事業所の管理者へ送信します。
評価対象者の確認結果の回答
対象者に間違えはないか?の確認結果を管理者が、メールで本部へ回答します。
スキル評価シートの配布
スキル評価シートの作成
評価対象者の確認が済みましたら、「スキル評価」の為に配布する「スキル評価シート」を作成します。「スキル評価シート」は、基本情報を個人毎に記載したシートとして配布しますので、個人毎に作成します。
留意:スキル評価シートの使い方及び作成方法については、こちらを参照下さい。
スキル評価シートのコピー
スキル評価シートの原紙(Excelデータ)が保管されているフォルダより、対象者の受けるレベルのスキル評価シート原紙を抜き出し、今回の評価の為のフォルダに格納します。(評価結果も記入して更新しますので、ファイル名に名前を付けて格納します。)
例:変更後=スキル評価シート(通所介護L2_介護スタッフ)高村薫.xlsx
注意:スキル評価シート原紙は、通所介護がL1,L2,L3、訪問介護がL1,L2,L3と管理者用があります。
スキル評価シートの基本情報の入力
各事業所の対象者毎に、スキル評価シートの原紙に基本情報(所属、本人氏名、職種、上司氏名、等級等)を入力して、更新・保存します。
スキル評価シートの印刷
基本情報の入力された「スキル評価シート」を、事業所毎、個人毎に印刷します。
スキル評価シートの配布
各事業所の管理者へ、対象者分の「スキル評価シート」を配布しますので、受け取った管理者から本人ひとりひとりに手渡しで、記入方法、提出納期等を説明します。
スキル評価シートの記入
「本人評価」欄の記入
スキル評価シートを受け取ったスタッフは、「本人評価」欄の○△✕-を選択して該当箇所を塗りつぶします。
注意:
評価対象のスタッフ全員、PCを持っている場合は、Excelシートに直接、記入して頂けると便利です。
「上司評価」欄の記入
記入済み「スキル評価シート」をスタッフから回収した管理者は、当該スタッフの「上司評価」欄を記入します。
注意:
管理者自身の「上司評価」欄は、社長に記入頂きます。(管理者から直接、社長へ依頼して、回収願います。)
スキル評価シートの回収
スキル評価シートの提出
「本人評価」欄、「上司評価」欄の記入された「スキル評価シート」は、規定された納期までに、管理者から本部へ提出します。
注意:社長の上司評価の記入された本人用(管理者用)も同時に提出します。
「評価」欄のスキル評価シートへの入力
提出された各個人の手書きの「スキル評価シート」を、本部でExcelデータとして入力します。
スキルシートの印刷とスキル評価結果の報告
評価結果の記入された「スキル評価シート」は、個人毎に印刷して、管理者に返却します。管理者は、評価結果を確認して、フィードバック面談に臨みます。
処遇改善加算手当(賞与)の評価
処遇改善交付額の記入
国保連から毎月届く「介護職員処遇改善加算等総額のお知らせ」により、評価対象期間(6ヶ月)分の処遇改善交付額を事業所別に集計します。
処遇改善加算手当(賞与)評価の記入
就労時間評価の算出
各事業所別に処遇改善交付額を入力することで、就労時間評価額を自動算出します。
例:栗田真澄美さんの場合
1,421,376円×0.3✕1,006.50h÷3,934.00h=109,096.2≒109,096円
スキル評価の算出
処遇改善加算手当(賞与)評価の評価項目の1つである「スキル評価」を採点済みの「スキル評価シート」から評価結果を転記します。評価L(レベル)を入力することで、スキル評価は自動計算されます。
①評価割合
評価L(レベル)により、次の通りです。
→評価L=0:15、評価L=1:25、評価L=2:50、評価L=3:75、評価L=4:100
例:栗田真澄美さんの場合、評価L=2なので、評価割合=50.00
②評価係数
例:栗田真澄美さんの場合、50✕6÷6=50、花村幸子さんの場合、15✕3÷6=7.5
③スキル評価
例:栗田真澄美さんの場合
会社全体の処遇改善配賦金=4,748,534×50%✕50÷825=143,894.9≒143,895
総合評価の算出
総合評価は、正社員のみが対象となり、総合評価欄を入力することで、自動計算されます。
例:
栗田真澄美さんの場合、4,748,534円×0.2✕100÷1,620=58,623.8≒58,624円
堀田尚子さんの場合、4,748,534円×0.2✕80÷1,620=46,899.1≒46,899円
留意:
対象は正社員のみで、デフォルトは管理者=100、管理者以外の正社員=80を設定して、変更する場合のみ変えるという方法を採ります。
フィードバック面談
フィードバック面談の実施
評価済み「スキル評価シート」を受け取った各事業所の管理者は、フィードバック面談を実施します。
注意:
「スキル評価シート」はコピーして、評価対象者に渡し、面談を開始します。(予め、本部がコピーして渡します。)
処遇改善加算手当(賞与)の支給
評価合計の額を、処遇改善加算手当(賞与)として支給します。が、予め予測した法定福利費と実際の賞与計算にて算出された法定福利費の金額の差が大きい場合は、評価額が変動することもありますので、ご留意願います。
注意:
処遇改善加算は、介護職員の賃金改善が目的の為、算定期間内に受け取った処遇改善加算交付額は、会社負担の法定福利費の増加分を除いて全額(1円以上多く)、介護業務に携わる介護職員に配賦しなければなりません。
コメント
評価・配賦一覧表のexcelサンプルを拝見したいです。
先月、法定福利費計算書を拝見させていただきました。ありがとうございます。
訪問介護事業所で処遇改善加算を取っているのですが、計算書と照らし合わせてgunjiiさんの記事をいくつか読ませていただいたおかげで、理解が深まり大変助かりました。
その延長線上で、未だに事業主負担増加分の計算に悩んでおり、また今回コメントさせていただきました。お時間ある時にご連絡頂けると幸いです。
よろしくお願い致します。
評価・配賦一覧表のexcelサンプル要
評価・配賦一覧表のexcelサンプル要