今回、人材育成・人事評価ツールとして厚生労働省の「職業能力評価基準」を取り入れた「能力評価シート(旅館業、調理)」を開発しましたので、その使い方について詳しく説明します。「能力評価シート」は、厚生労働省が公開している職業能力評価シートを実務で運用できる様にカスタマイズして評価結果を自動集計し、合否を判定するなど関数を設定したチェック形式の実務シートです。
職種(「調理」)を「職務」×「レベル」のマトリックスとして作成していますので、どのスタッフが、どの種類のどのレベルのシートを使うのかを特定して評価することとなります。特定した「評価シート」で本人評価と上司評価を行い、評価結果でフィードバック面談を行って人材育成や人事評価に繋げることとなります。ここでは、「評価シート」の使い方と共に、評価の実施手順について解説します。
「職業能力評価基準」とは仕事をこなすために必要な「知識」と「技術・技能」に加えて、「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」を、厚生労働省が国と業界団体と連携の下で、業種別、職種・職務別に整理したものです。採用や人材育成、人事評価、検定試験の「基準書」として利用できるものとなっていますので各企業でカスタマイズして活用できます。
(厚生労働省 職業能力評価基準より)
能力評価シートの構成
使い方の説明をする前に、「評価シートの構成」を確認しておきます。
テンプレートは、こちら→ 「能力評価シート(旅館業、調理向け)」
構成全体
「能力評価シート」は「基本情報シート」,「入力シート」,「評価結果」,「コミュニケーションシート」で構成されます。
各シートの構成
基本情報シート
評価対象者の氏名、職種、等級、入社年月日等を設定するシートで、フォームは全て同一です。(レベルタイトルと貼り付けた設定レベルの表のマーカーが異なるのみ)
※レベルタイトルは、それぞれの「能力評価シート」のレベル表のマーカーで決まっています。
「能力評価シート」は職種(「調理」)を「職務」×「レベル」のマトリックスとして作成されていますので、職種、職務、レベルは、評価シートで固定となっています。
入力シート
入力シートは、「共通能力ユニット」と「選択能力ユニット」から構成されます。
この入力シートで、本人評価及び上司評価欄にチェックをします。
チェックは、◎、○、△、×、-をオプションボタンで選択します。実際の運用では、被評価者へ評価シートを配布して、手で✔をつけるか又は塗りつぶして頂き、それを回収して、例えば本部でexcelデータとして入力することとなります。
評価結果シート
評価結果シートは、入力シートの評価結果を集計し、レーダーチャートとして表示したものです。
各職業能力評価シートに記載されている「レベル判定の方法」を自動判定させる為に◎、○、△、×の数を集計して合否判定して「判定結果」を表示させています。さらに、昇給・昇格、賞与の査定に利用できる様に「達成率」と「評価」も、自動で表示させています。
コミュニケーションシート
課題特定・目標設定
スキルレベルチェックグラフを参考に本人と上司とで話し合い、「課題特定・目標設定」を行います。目標設定の際には「いつ」「何を」「どこまで」行うかを明らかにし、具体的な目標を立てましょう。
実績確認
コミュニケーションシートの最下段の実績確認欄は、次回の評価の際に、「課題特定・目標設定」で掲げた目標がどの程度達成されているかを評価します。
留意:
コミュニケーションシートの運用については、以下の点に留意下さい。
(文章での記述式の評価では、それなりの慣れや訓練が必要と思われますので、評価する側も評価される側も、教育の機会があることが望まれます)
評価実施の手順
評価実施の準備
評価目的の確定
「評価」を実施するにあたって、その目的を明確にしておきましょう。
「人材育成」を目的とする場合は、キャリアマップを作成して、レベルに応じた社員教育制度を整備し、教育(内部研修、外部研修等)に繋げることが大切です。「人事評価」を目的とする場合は、評価結果を報酬制度へどのように反映させるのか?その仕組み(昇給・昇格や賞与等へどのような計算で反映するのかなど)や時期(年1回、年2回等)を決めておくことが必要です。
評価結果の活用
「能力評価シート」は、職業能力評価基準の判定であるレベル判定です。が、レベル判定と共に、報酬制度へ反映しやすいように、「評価点数」、「達成率」、「SAB・・評価」を指標として追加しています。
レベル
レベル1、レベル2、レベル3、レベル4の4つのレベルがあります。「職業能力評価基準」に準じて、企業において期待される責任・役割の範囲と難易度により、4つの能力段階を設定しています。
レベル判定
「旅館業、調理」で規定されている以下の判定基準で「認定結果(合否)」を決定しています。
- 「レベル判定」結果を、昇給・賞与に反映する?
「レベル判定」は、「職業能力判定」ですので「合格」することが、その仕事に従事する為の条件といった性質のものです。従って「不合格」であれば勉強不足であり、「合格」が当たり前と考えれば、レベル判定だけを昇給等の指標とするのは適切ではありません。点数、達成率、評価等の指標や、他の指標(勤怠状況、成績等)を加味した形で反映することをおすすめします。
例えば、そのレベルの経験年数が2年以上で、且つ、Aランク以上の評価の場合には昇給して、2年連続してSランク以上であれば、「評価委員会」の承認の上で昇格する等
注意:
評価委員会」とは、評価のバラツキや偏りなどを是正して、公正・公平を保持する為の合議体です。全員の評価結果を一覧として査定のバランスを見て、各部門マネージャーが協議して、全員納得の上で査定を決定します。 - 「認定」となれば、次の評価時はレベルアップした評価シート?
例えば、L2の評価シートで「L2認定」となれば、次回はL3の評価シートで受け、「L1」であれば、次回もまたL2の評価シートで評価を行なうのが妥当ですが、評価する上司の評価基準にバラツキ(甘い、厳しい等)があると、正確なレベル判定にならない事も考えられます。L1レベルの評価シートで「認定」を受けたからと言って、次はL2で受けるのか否かは、各会社での判断となりますが、キャリアマップとの関係を見て頂いて、認定となったからと言って経験年数が満たない場合は、上位レベルではなく、再度、同じレベルで評価して頂くのが良いでしょう。
注意:
職業能力評価基準は、行動評価なので、同じシートで評価しても結果が同じとは限りませんし、レベル判定は、その仕事に従事する為の条件と考えれば毎回、高い評価での結果であることが望ましいのです。
よって、どのレベルの評価シートで評価するかは、評価シートの結果と共に、毎回、評価委員会等で個人毎に他の指標も加味して、キャリアマップに準じて、一定の経験年数を条件として決定することとするのが良いでしょう。
評価シートの特定
「能力評価シート」は、職種(「調理」)を「職務」×「レベル」のマトリックスとして用意していますので、どのスタッフが、どの種類の、どのレベルのシートを使うのかを決定することが必要です。「評価」の被評価者(対象)は、誰なのか?管理職のみか?パートさんも含めた全スタッフか?を決めた後、「評価シート」のレベルを特定します。
「能力評価シート」は、職種「調理」では、「職務」×「レベル」のマトリックスとして、5種類のシートがあります。
「評価シート」の準備
「評価シート」の作成
どのスタッフが、どの種類の、どのレベルのシートを使うかが確定しましたら、「評価シート」の基本情報シートに被評価者の氏名や上司評価者の氏名など基本情報を入力して、被評価者ごとの「評価シート」を作成します。
注意:
「能力評価シート」(excel)は、原本をコピーして人数分のブックを作成します。定期的に評価を行うためにも、データとして残しておくことが必要ですので、作成するブック名は、以下のようにするのが良いでしょう(ブック名に、被評価者氏名と評価日付を付加すると管理しやすくなります。)
例:小野小町さんの2020年04月の「能力評価シート」を作成する場合
能力評価シート(調理)L2シニアスタッフ.xlsx→能力評価シートL220200401_小野小町.xlsx
評価シートの識別(誰のシートなのか)の為、評価日付と本人氏名及び上司氏名を入力すれば、他は必要な場合、入力することで問題ありません。
「評価シート」の印刷
「評価シート」を、直接、Excelで被評価者へメール添付で配布して評価を依頼する場合は、「評価シート」を印刷する必要はありませんが、ペーパー(紙)で配布する場合は、印刷が必要です。
印刷の方法
基本情報シートの入力が完了しましたら、印刷します。1ブック1名で印刷します。つまり、人数分のセットを印刷します。
印刷の範囲
ペーパー(紙)で「評価シート」を配布する場合は、4枚目の評価結果と5枚目のコミュニケーションシートは必要ありませんので、3枚目までを印刷します。
この場合は、手書きで評価(◎、○、△、×、-を記入)されたシートを回収して、被評価者のexcelの評価シートに結果を入力する必要があります。
評価の実施
「評価シート」の配布
印刷した評価シートは1人分をクリップ(ホッチキス)で止めて、対象者分を被評価者の上司へ、まとめて渡し、上司から本人へ渡すように依頼します。
※シートは回収して、評価結果の集計を行いますので、回収納期を伝えておきます。
本人評価の実施
「評価シート」を受け取った本人は、本人評価欄を✔又は塗りつぶしてして、納期までに上司へ返却します。
上司評価の実施
本人から記入済みの「評価シート」を受け取った上司は、本人評価を参照しながら上司評価欄に評価(○、△、×,-)を記入して、納期までに本部(又は人事)へ返却します。
採点と、評価結果のデータ入力
本人評価、上司評価の記入された評価シートは、本部又は人事へ返却・回収されますので、回収した「評価シート」の結果をexcelデータとして入力します。
結果を入力することで、評価結果シートで採点されます。
この場合、「×:できていない」がなく、上司評価の「◎+○の数」の割合が78.3%の為、レベル判定では、「L1認定」となっています。
フィードバック面談の実施
評価結果の入力された評価シートは、各個人毎に印刷して、フィードバック面談に備えます。
上司評価者は、評価結果の印刷された「能力評価シート」で、被評価者に対してフィードバック面談を行います。(「評価シート」はコピーして、被評価者に渡し、面談を開始します。)
コメントの記入
フィードバック面談では、お互いの評価がことなっている場合は、何故その評価をつけたのか、知識やスキルを向上させる為にはどうすれば良いかを話し合いましょう。
課題特定・目標設定、実績確認
課題特定・目標設定
スキルレベルチェックグラフを参考に本人と上司とで話し合い、「課題特定・目標設定」を行います。目標設定の際には「いつ」「何を」「どこまで」行うかを明らかにし、具体的な目標を立てましょう。
実績確認
コミュニケーションシートの最下段の実績確認欄は、次回の評価の際に、「課題特定・目標設定」で掲げた目標がどの程度達成されているかを評価します。
留意:
コミュニケーションシートの運用については、以下の点に留意下さい。
(文章での記述式の評価では、それなりの慣れや訓練が必要と思われますので、評価する側も評価される側も、教育の機会があることが望まれます)
担当ではない業務の扱い方
能力評価シートは、「職業能力評価基準」がベースとなっていますので、担当ではない業務内容や、会社では規程がない業務(能力ユニット)が記載されている場合もあります。その場合は、当該「職務遂行のための基準」で本人評価及び上司評価のチェックに、゛-:該当しない゛を選択します。
注意:ここでの「能力ユニット」とは、選択能力ユニットを言います。
業務の一部を外す場合
対応方法:「能力細目」で「-:該当しない」を選択する。
例えば、「調理」の中の「調理補助」では「調理の準備」、「調理の補助」、「盛り付け」、「飲料の提供」、「業務の振り返り」の能力細目が記載されています。が、「盛り付け」を担当していない等の場合は、本人評価及び上司評価のチェックで、゛-:該当しない゛を選択して下さい。
予めわかっている場合は、評価シートを配布する前に、゛-:該当しない゛を選択した評価シートを印刷して配布します。
尚、評価シートを配布して本人評価、上司評価を行う場合は、「自分の担当していない業務」があった場合は、゛-:該当しない゛を選択する旨を伝えておきます。
業務の全てを外す場合
対応方法:「能力ユニット」で、「-:該当しない」を選択する。
「調理」職種の「調理」職務では、「調理補助」、「調理」、「後片付け」の業務を担当することが規程されていますが、例えば「調理補助」を担当していない場合は、゛-:該当しない゛を選択して、シートから外し(評価できない様にする)ます。