毎月の給与から控除される社会保険料(健康保険料と厚生年金保険料)は、どうやって計算されているのでしょうか?給与の額に何パーセントかの保険料率を掛けて計算しているのでしょうか?
実は、健康保険料や厚生年金保険料は、報酬(給与)の額面ではなく、報酬によって定められた等級によって決まる「標準報酬月額」というものに、保険料率を掛けて計算されているのです。被保険者ごとの標準報酬月額は、残業代や通勤費なども含めた1か月の給与額を「標準報酬月額表」に当てはめて決定します。この標準報酬月額表は、健康保険ならば第1級の5万8千円から第50級の139万円までの全50等級、厚生年金は1等級(8万8千円)から31等級(62万円)までの31等級に分られています。たとえば、毎月の給与総額が21万円以上23万円未満の場合の標準報酬月額は22万円となります。詳しい標準報酬月額の決定方法は健康保険法第42条に定められていますのであわせて確認してみてください。
標準報酬月額の決定のタイミングには、以下のごとく大別して、3つあります。それぞれのタイミングで、実際の提出方法を説明します。
注意:
育児休業終了日に満3歳未満の子を養育する場合に、従来と比べて給与が下がった場合、随時改定に該当しなくても、育児休業終了日の翌日が属する月以後3か月間に受けた報酬の平均額に基づき、4か月目の標準報酬月額から改定することができます。
資格取得時決定
社員が社会保険へ加入するために、会社は「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を提出します。このときに標準報酬月額を決定します。これを資格取得時の決定といい、その年の8月まで使用します。但し、6月1日から12月31日までに資格取得した人は、翌年の8月まで使用します。
具体的な例で説明します。
労働条件の確定
平成28年5月1日入社した神戸徹也さんの雇用契約書は、以下の通りです。
給与(報酬)は、基本給145,000円+資格手当10,000円+調整手当5,000円+交通費3,360円で、163,360円となります。
標準報酬月額の算出
給与(報酬)は163,360円なので、「保険料額表」より報酬月額155,000円から165,000円の13等級の標準報酬月額:160,000円を算出します。これは1カ月あたりの報酬額、すなわち通勤費も含めた総支給額となります。
給与から控除される社会保険料は、以下の通りです
健康保険料 =160,000円×0.1010÷2=8,080円
厚生年金保険料=160,000円×0.17828÷2=14,262円
資格取得届の提出
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届については、雇用した日から5日以内に所轄の年金事務所または加入している健康保険組合に提出します。
「標準報酬決定通知書」の受取り
「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を提出すると、年金事務所より以下の様な「健康保険・厚生年金被保険者標準報酬決定通知書」が郵送されますので、標準報酬月額を基に毎月の給与から健康保険料、厚生年金保険料を控除します。
保険証の発行は全国健康保険協会(協会けんぽ)で行う為、健康保険証が会社に届くまでには10日から2週間ほどかかります。
定時決定
被保険者の標準報酬月額は、資格取得時(通常は入社時)に決定されますが、昇給があったり、手当に変動があったりします。そこで、被保険者の実際の報酬と標準報酬月額との間に大きな差が生じないように、4月~6月を対象として毎年1回標準報酬月額の改定が行われます。これを「定時決定」と言います。よく「4月~6月に残業すると損」と言われのは、残業手当がついて標準報酬月額が高くなり、高い保険料を給与から控除されることとなるからです。
留意:
将来もらう年金額の計算にも標準報酬月額を元に年金額が計算されますので、高い保険料を払っていれば将来多くの年金をもらえますので損という訳ではありません。
対象範囲
7月1日時点で健康保険・厚生年金保険に加入している全ての被保険者。但し、以下1.~3.のいずれかに該当する人についての算定基礎届は提出する必要がありません。
- 6月1日以降に資格取得した人
- 6月30日以前に退職した人
- 7月改定の月額変更届を提出する人(名前が印字されていても無視)
注意:
8月、9月に月額変更届を提出する予定の人も算定基礎届の提出は不要ですが、2等級以上の変動がない場合、改めて算定基礎届を提出する必要があります。算定基礎届の提出漏れを防ぐために、8月、9月に随時改定が確実な場合を除いて、算定基礎届を提出しておいた方がいいでしょう。
対象期間
4月・5月・6月
提出期間
7月1日〜7月10日まで(最終提出日が土日祝の場合は翌営業日までとなります)
反映期間
この時決定された標準報酬月額は、その年の9月より改定され、9月分の保険料(10月給与控除)より変更され、原則的には翌年の8月まで適用されます。
提出先
郵送で事務センター又は管轄の年金事務所
提出物
- 被保険者報酬月額算定基礎届
- 被保険者報酬月額算定基礎届 総括表
- 被保険者報酬月額算定基礎届 総括表附票(雇用に関する調査票)
- 70歳以上被用者算定基礎・月額変更・賞与支払届(該当者がいる場合のみ)
諸注意
- 毎年6月中旬頃、年金事務所より会社へ算定基礎届の用紙が送られてきます。そこには社会保険に加入している人の氏名や生年月日等が予め印字さけていますが、少し古い情報の為、既に退職された人の名前が掲載されていることがあります。退職された人は算定の対象外となりますので、二重線で消しましょう。
- 在籍しているが、海外駐在や休職中の人も算定の対象です。7月1日現在、社会保険に加入しているも、病気やケガで休職中、産前産後休業、育児休業などで休んでいる人も算定の対象者です。
- 6月1日以降に新たに社会保険に加入した人は、標準報酬月額を届けたばかりなので算定の対象外となります。
算定基礎届の記載方法
計算方法
報酬月額は、4月、5月、6月の3ヶ月間に支払われた報酬につき、基本的に次の様に計算します。
- 支払基礎日数が17日未満の月は計算の対象から除外
- 月々支給されるもので、現物は通過換算(都道府県ごとの価額)して各月の報酬月額を計算する。尚、4月~6月に年3回以下の賞与があれば計算から除く。
- 対象月(支払日数が17日以上)の報酬総額を対象月数で割る。
※各月の報酬月額は「その月に実際に支払われた報酬」で、支払基礎日数は「その報酬の計算の基礎となった日数」を言います。
例:月給制で3月16日~4月15日分を4月25日に支払う場合、4月の報酬月額は4月25日支払額」、支払基礎日数は3月16日~4月15日の「31日」となる。
支払基礎日数
支払基礎日数とは、報酬の月額を決定する際に、その計算の基礎となる日数のことで、給与の支払形態によって異なってきます。
[完全月給制の場合]
欠勤しても控除されない給与の場合は、歴日数が支払基礎日数となります。
[日給月給制の場合]
月給制ですが、欠勤すれば欠勤控除される給与の場合は以前は「歴日数-欠勤日数」となっていたようですが、日割り計算する際の分母が支払基礎日数のベースとなっています。
例えば、欠勤について、欠勤控除=基本給等✕不就労日数/月平均労働日数で計算するとなっていれば、月平均労働日数が支払基礎日数となります。
月平均労働日数=(365-107)÷12=21.5≒21日で、欠勤=2日であれば、19日が支払基礎日数となります。
※実務上は、対象期間に欠勤がない場合は、歴日数を記載しても良いとされているようです。
[日給制・時給制の場合]
出勤日数が支払基礎日数となります。
算定基礎届の記載
定時決定の具体例
平成28年度定時決定
平成28年5月1日入社した神戸徹也さんは、平成28年の定時決定を経て、平成28年9月時点で、標準報酬月額は180,000円となっています。
算定基礎届を提出すると、年金事務所より以下の様な「健康保険・厚生年金被保険者標準報酬決定通知書」が郵送されます。
給与から控除される社会保険料は、以下の通りです。10月給与控除より適用となります。
健康保険料 =180,000円×0.1010÷2=9,090円
厚生年金保険料=180,000円×0.18182÷2=16,364円
平成29年度定時決定
平成29年の定時決定を経て、神戸徹也さんの標準報酬月額は平成29年9月時点で、200,000円となります。
算定基礎届を提出すると、年金事務所より以下の様な「健康保険・厚生年金被保険者標準報酬決定通知書」が郵送されます。
給与から控除される社会保険料は、以下の通りです。10月給与控除より適用となります。
健康保険料 =200,000円×0.1019÷2=10,190円
厚生年金保険料=200,000円×0.18300÷2=18,300円
随時改定
被保険者の標準報酬月額は資格取得時(通常は入社時)、又は年に一度の定時決定で決定もしくは改定されますが、報酬が昇給または降給により著しく変動した時は、次の定時決定を待たずに標準報酬月額が改定されます。これを「随時改定」といいます。
対象範囲
「月額変更届」による随時改定は、次の3つの条件を全て満たしたときに行います。
- 昇給や降給等で固定的賃金に変動があった。
基本給や手当といった固定的賃金の変動が対象なので、残業代などの非固定的賃金のみの変動は対象外となる - 変動月から3ヶ月間に支払われた報酬(残業手当などの非固定的賃金も含む)の平均月額に該当する標準報酬月額と従前の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた(2等級以上の変動がないと対象とはなりません。)
- 3ヶ月とも支払基礎日数が17日以上だった。
注意:随時改定の対象とならない場合
①固定的賃金の変動がなく、非固定的賃金の変動により2等級差が生じた場合は、随時改定の対象とはなりません。
②固定的賃金が変動し2等級差が生じた場合でも、次のような場合は随時改定の対象とはなりません。
ア.固定的賃金が上がったが、非固定的賃金が下がり、逆に2等級以上下がった。
イ.固定的賃金が下がったが、非固定的賃金が上がり、逆に2等級以上上がった。
対象期間
変動月から3ヶ月間
提出期間
すみやかに
反映期間
随時改定に該当すれば、固定的賃金が変動し、その報酬を支払った月から数えて4ヶ月目に新たな標準報酬月額が適用されます。
注意:
社会保険料は、翌月納付となっていますので標準報酬月額改定月の翌月(報酬の変動があった月から5ヶ月目)に支払われる給与から新たな保険料額となります。
例:
11月に支払われた給与で固定給が2等級以上変動した場合は、11月、12月、1月、2月で4ヶ月目の2月分(3月支給分)の給与から新しい保険料となります。
改訂された標準報酬月額は、再び随時改定がない限り、6月以前に改定された場合は当年の8月まで、7月以降に改定された場合は翌年の8月までの各月に適用されます。
提出先
郵送で事務センター又は管轄の年金事務所
提出物
被保険者報酬月額変更届
注意:
原則として添付書類は不要ですが、改定月の初日から起算して60日を経過した後に届出る場合又は、標準報酬月額が5等級以上下がる場合は添付資料が必要となります。
月額変更届の記載方法
随時改定の具体例
平成29年9月1日に入社した山下万結さんは、入社時の給与(報酬)は、基本給160,000円+交通費6,300円=166,300円で、標準報酬月額は、170,000円でしたが、11月支給分から職務手当20,000円が加算されましたので、10月、11月、12月の標準報酬月額は、180,000円となりました。さらに1月支給分から資格手当10,000円が加算されましたので、11月、12月、1月の標準報酬月額は2等級UPの190,000円となりましたので、月額変更届を提出しました。
給与から控除される社会保険料は、以下の通りです。3月給与控除より適用となります。
健康保険料 =190,000円×0.1019÷2=9,681円
厚生年金保険料=190,000円×0.18300÷2=17,385円
健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬改定通知書
「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届」を提出すると、日本年金機構の事務センターより「健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬改定通知書」が届きます。